極私的レペゼン川崎

川 端 浩 平

このアルバムは、FUNIのきわめて私的なジモト川崎での出来事をもとに作成されている。南部川崎という＜場＞（hood）が私的な経験をもとに生まれたインスピレーションを手がかりに描き出されていく。ただしこの作品は、南部川崎という労働者階級やそこで生活する多様なバックグラウンドを生きている人びとの生きづらさを代弁（＝レペゼン）する応援歌ではない。ある集団を代弁する応援歌はわかりやすいし、感情移入しやすいような気がする。オリンピックや甲子園での勝利を讃える国家や校歌のように。そのような応援歌は、みなの気持ちをある一つの方向性へと束ねていくいっぽうで、一人ひとりの一喜一憂や喜怒哀楽の感情といった多様性を消し去っていく。その意味で、実はとても分かりづらい表現方法という側面を持っている。FUNIがKawasaki2で試みているのはその逆である。FUNIという個人が経験した日常的な出来事を在日コリアンの問題として、南部川崎というコミュニティの問題として、ひいては世界中にある川崎的な問題として赤裸々に表現してジモト川崎のリアルを描きだしていくという手法である。翻ってみれば、これは私たちが世界を理解し、語ろうとするときに一番大事にしているものである。テレビや新聞、パソコンやスマホから得た情報をもとに私たちが世界を理解し、語るときに根拠としている手触り感のある経験や思いだ。その意味でFUNIのラップはオルタナティヴなメディアとよべるかもしれない。現行のメディアが描く私たちの社会にウンザリだという人も多いはずだ。僕たちの知っている現実とはあまりにも乖離しているし、明日を生きる道標にさえならない。＜わかりやすい＞は、視聴率や広告費がとれるくらいの意味だし、24時間つながる社会は息苦しい。だから必要なのはコミュニケーションではなくて、ディス・コミュニケーション。知ってるつもりになるのではなくて、問いを持ち学びなおすこと。ここがラップの得意分野だ。社会をディスる（＝disrespect）ことを通じて既存の社会体制に物申していく。ラッパーも社会の一部だから自分自身もディスの対象ともなる。愛の鞭が必要なのだ。とはいってもそれはいわゆる鉄拳制裁とは異なる。ラップは、ギャングスターたちの拳銃などの武器を通じた抗争によって失った仲間の命への弔いと反省から生まれた言葉を武器にしたバトルであり、遊び・知恵なのだ。鉄拳制裁ではなく、非人間的なコンプライアンスやリスク管理でもない＜他者＞とともに生きて行くための日常知。とはいえ、大衆メディアに曝されている私たちは、ラップや私的な表現方法にあまり馴染みがない。この解説書は、ラップを学びはじめたばかりの僕なりにFUNIの極私的経験を聞き取りさせてもらったうえで記すライナーノーツである。リスナー一人ひとりの想像力を喚起していくための一助となれば幸いである。


01 - 自殺した牧師と迷子の羊-在日大韓基督教会川崎教会 (feat. 金 健) [Explicit]
在日大韓基督教会川崎教会の三代目牧師であった金健氏の葬儀。この教会を築いた先代の牧師には日本人の妻とのあいだに生まれた子どもがいた。通称名ではなく民族名を使用していたため子どもを受け入れてくれる保育園はなかった。この経験をもとに、アメリカの公民権運動に多大な影響を受けていた牧師は、1969年に在日コリアンが集住する川崎区桜本地区に保育園を設立する。桜本保育園は働く親たちが子どもたちを預ける場であるとともに、様々なルーツを持つ人びとの交流や文化形成の拠点となった。かつてFUNIはこの保育園で感性を育んだ。とりわけカリフォルニア州バークレーから戻ってきた二代目牧師の金性済氏からはアメリカ文化を学んだ。それが、このコミュニティからヒップホップ文化を生み出していく。しかしながらまた、コミュニティは多文化化が進展してくなかで変容していく。この牧師の死はそのような在日コミュニティの変容を象徴する出来事でもある。いくつもの国と地域を越境する旅を経たいま、ふたたびジモトとの再会が始まる。

02 - g.h.o.s.t~郭正勲→FUNI→高吉正勲→_ (feat. ghostinmpc) [Explicit]
ジモト川崎への帰還と再会。ここに至るまでのFuniの越境の軌跡が語られる。この子は大物になると将来を占ったハンメの言葉を頼りに紆余曲折の自分とジモト川崎の出会いなおしだ。スラムとしての南部川崎で育った在日コリアンとしての郭正勲を発見したのは北部の高校への進学がきっかけだ。大学を卒業するも就職するでなく、在日コリアンのラッパーとして大手レコード会社からメジャーデビューを果たす。韓流ブームも後押しし、NHKのハングル講座や劇団で『GO』の舞台に立つなどの成功をおさめるいっぽうで、ラッパーFUNIとしてよりも在日コリアンとしてのFUNIという立ち位置に違和感を感じるようになる。気づいたら青年実業家になっていた。IT系企業の社長・高吉正勲として成功してタワマンから新宿のまちを独裁者的に見下ろす彼のまわりにはかつての友達や恋人はいなくなっていた。そのことに気づいたFUNIは、幸せの意味を探して旅に出る。資本主義社会で渦巻く欲望、分断、憎しみから遠く離れて、様々な場所で「他者」との出会いを繰り返す。それは自分やジモト川崎との出会いなおしでもあった。ふたたび根拠地である川崎へと戻ったFUNI。「俺は独裁者になんかなりたくない」ところから新しいFUNIと南部川崎の物語が紡がれていくのだ。

03 - maboroshi-西新宿5丁目→川崎 (feat. ghostinmpc, OCTOPOD & nanashi) [Explicit]
2010年、FUNIは川崎を出てIT系企業の社長となった。日曜日の教会から遠く離れて。戦場としての新宿の目まぐるしい日々が幻影のように思い起こされる。SNSを通じて受信されるヒップホップ界隈や川崎でつながるかつての自分との大きな断絶。路上やネット空間ではヘイトスピーチが鳴り響くが、それに対抗するような言葉は生まれない。戦争で苦しんだ犠牲者の眼差しに耐えきれない人びとは、戦後70年近くを経て帰還兵を路上やネットに召喚し「あの戦争は正しい」と代弁する。それが、川崎に帰還した今、自分や川崎を忘れて新宿で競争に勝ったものの何も誇ることができない自分とどこか重なように感じられる。映画『TAXI DRIVER』（1976）でロバート・デ・ニーロが演じたベトナム戦争から帰還した元海兵隊員のトラヴィス・ビックルのように。凱旋ではない帰還者を待つ現実はシビアだが、どん底にこそ再生の予感が秘められているのだ。

04 - 話し相手サービス ノーベルライフ [Explicit]
会社を去った無職の30代ラッパーがジモトで何ができるのか？自分にしかできないこととは何か。それを生業にすることが成功だとはわかる。ラッパーはmaster of ceremony。司会者であり、シャーマンであり、優れた聴き手であり即興詩人でもある。FUNIの生業の一つである話し相手サービスもまさに現代のラッパーたちの領分である。しかし相談者とのやりとりには細心の注意や感性が求められてくる。下手クソな即興詩人のポエムや全能感は耐えられない。「他者」のリクエストに全身全霊の注意を向けること。その時に成功はまるでプレゼントのお返しのように手渡されるのだ。

05 - 渇き [Explicit]
ラッパーとしての再生の道は厳しい修行でもある。厳しい修行は当然抜け出したくもなる。喉の渇きを満たしてくれるような誘惑はいくらでもある。ただし、根源的な精神の渇きを満たすためには修行が必要だ。でも、ラッパーにとっての修行は煩悩退散を目論む行者のそれではない。ジモト川崎での日常の＜いま・ここ＞において、根源ともえいる創作の契機を探し求め続けること。私たちの世界に外部はない。むしろ、いかに＜いま・ここ＞と果てしなく広がる世界、過去や未来、そしてはじまりとおわりがつながっているのかを、ラッパー修行道において探している途上なのである。安易に世界の終わりを悟るハルマゲドン的な破滅に陥ってはいけない。本当の渇きを求めてトランス状態は続くのだ。

06 - 川05東扇島循環特急行き [Explicit]
川崎市営バス、東扇島循環特急行き。このバスは毎朝、労働者たちを川崎駅前から東扇島まで運んでいく。東扇島で働く労働者たちを運ぶために平日の6時46分から8時８分までのあいだ９便が運行している。産業道路を過ぎて陸橋を越えてさらに突き進むと京浜工業地帯の工場群へと連なっていく。FUNIはここをアメリカのラストベルトの最北部に位置するデトロイトに喩える。時差や地域差はあるにしろ、概ね近代化のなかで同じ運命を背負った都市だ。川崎とデトロイトが折り重なる東扇島は青春時代と今、あるいはこの広い世界と川崎を結びつけるインスピレーションがもらえる、もう一つの原風景でもある。

07 - exsodus ~出エジプト記~ (feat. OCTOPOD) [Explicit]
帰還兵FUNIは、あらためてジモト川崎へとコミットしていく方向性を感じ取りつつある。川崎に取り残された人びとへと思いを馳せる。火と煙を吹く工場群。誰がダンナか分からない子どもを連れて歩くヤンママ。情緒不安定な若者たち。コケにされているにもかかわらず現実を直視できない。モーゼのごとく取り残されたコミュニティ川崎の同胞たちにこの地獄から共に歩み出ようと訴えかける。自分だけが地獄から脱出するのではない。一緒に脱出するのだ。取り残された場所に留まる方が安全なのか、脱出したら成功するのか、そこにわかりやすい正解はない。あったとしても蜘蛛の糸のようなもの。愛憎を越えて愛を感じ取ること。そのためには地獄を出て、偏狭な排外主義や民族主義を越えて世界中の川崎とつながっていくべきなのだ。

08 - まーちゃん居酒屋 (feat. SHIMO) [Explicit]
地獄にも天国はある。現代資本主義社会の中でモーゼは、その姿を変えて色々なところに潜伏しているのだ。探せば、その存在に気づけばモーゼに出会うことができる。想像力の問題だ。貧困家庭で育ち、バイトで稼いで大学に通う川崎の若手ラッパーはモーゼに出会った。居酒屋まーちゃんの切り盛りをするお母さんだ。ぐるなびでは探せない居酒屋まーちゃん。「タダでもいいからご飯食べにきなさい」という親切心は、苦学生のラッパーには「ぶっ飛んだ」発想だ。いや、彼はお母さんのことを「ぶっ飛んだ」というふうには思っていない。お母さんのノリに愛を感じるとともに、それを人間にとっては当たり前のことでもあると感じている。むしろ、利益を度外視したお母さんの営業を「ぶっ飛んだ」というふうな枠組みや言葉を備給しているのは、資本主義社会である。そしていま、この若手ラッパーには、他の迷える子羊たちに愛を与えるバトンが手渡されたのだ。

09 - straysheeps (feat. tristero) [Explicit]
川崎の光と影。影の世界で狼に育てられた迷える子羊はどのように生きていけば良いのか。貧しい者たちにとっての川崎と富める者にとっての川崎は違うまちだ。グローバル化時代のイケてる都市を目指して川崎もまた中心市街地を再開発し、世界へ向けてイケてるまち川崎という付加価値（ブランド）を発信している。しかしFUNIのレペゼン川崎は、そのような一部にのみ富を集中させる効果を持つ地域ブランディングとは異なる。FUNIがコミットするジモトは川崎の影の部分である。資本の光に照らされない夜の川崎には、家族を犠牲にし、恋人や友人を傷つけ、自傷行為に及ぶという負の連鎖が存在している。闇の世界の閉鎖性と悪循環をSNSが加速化させてしまうような環境がある。そのような川崎の影の部分にも育まれて生まれたラップだからこそ、金持ちにではなく迷える子羊たちに読みあげるのだ。この詩は、川崎というコミュニティを媒介したラッパーからストリートを生き抜く若者たちへのギフトでもある。



10 - IMADASOREGA ~regret~ -マンハッタン→フォートリー→クイーンス→フルックリン→ワシントンDC→インティアンスクールレーン→サンノセ→カルフォルニア→ホートラント→サ
2014年、IT企業を辞したFUNIはヒップホップの聖地へと旅する。高度経済成長期も終焉を迎え脱工業化していく1973年8月アメリカのニューヨークでヒップホップは誕生する。ヒップホップを生み出したのは、中南米からの移民であり、アフリカ系アメリカ人だ。その軌跡を辿るかのように彼の旅はマンハッタン島から始まる。なぜ旅に出るのか。30歳を迎え良い歳して遅れてきた自分探しが始まるのか。FUNIを突き動かしたのは、IT企業で奔走するなかで忘れていた夢を諦めた後悔の衝動に立ち返ることである。今でしょ、というわけだ。首都ワシントンDCを経て、FUNIのヒップホップの聖地でもある西海岸を旅する。1990年代のギャングスターラップは、ロサンゼルスの貧困地域によるギャングスターの抗争が主要なテーマだった。アフリカ系VSヒスパニック系という対立軸、さらにはコリアン系など、荒廃して仕事のないインナーシティで移民の子孫たちは銃ではなく言葉とリズムを武器に勝負するという文化を編み出していったのだった。グローバル化のなかで取り残された異郷の地の人びとが生み出した文化は川崎と地続きなのである。

11 - The Walled Off Hotel-パレスチナ (feat. DJ黄 a.k.a KEYROYBEATZ) [Explicit]
The Walled Off Hotelは、イギリスを拠点として活動するストリート・アーティストのバンクシーが2017年3月20日に開業したホテルである。このホテルを訪れたときのインスピレーションから作成されたのがこの曲である。グラフィティ（落書きアート）を中心としたバンクシーの一連の作品は、ストリートから政治や社会、そしてその中心にある権力への挑発が込められている。ヒップホップ文化の一要素でもあるグラフィティに象徴されるように、持たざる者が０から生み出した文化的表現なのだ。イギリスの帝国主義が生み出したパレスチナ。このホテルは、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸地区に位置し、イエスキリストが誕生した場所とされる降誕教会のすぐ近くに位置する。文字通りイスラエルとパレスチナ自治区を分離する壁に隣接しており、世界一眺めの悪いホテルという異名を掲げている。ラッパーFUNIもまた、ジモト川崎のストリートから生まれてくる言葉を武器に既存の秩序や社会体制を挑発するのだ。

12 - Sunday-鶴見市場 (feat. masakief) [Explicit]
在日コリアンや沖縄出身者をはじめ多様なルーツを持った人びとが生活する鶴見区。日本の近代化と帝国主義にともない、植民地や日本の周辺地域の人びとは工業化が進展していた鶴見川周辺に移り住んだ。そんな鶴見で友人とドライブしながら自分をアニメ・シンプソンズのホーマー・シンプソンズに投影する。それがKawasaki2のあらゆるところに埋め込まれたDo’hである。ホーマー・シンプソンズは、自分がミスをやらかした時にこの言葉を自分自身に投げかける。それは、自分のダメな部分や失敗を曝すことであり、ディスることでもある。ダメな自分を肯定的に捉えるのではなく、もう同じような失敗はしないぞという学校では教えてくれないタイプのストリートの知恵だ。自分の好みの女性像が語っているなかで日常のディーヴァが突如現れる。結婚したい。子ども欲しい。ジモト川崎のストリートでラッパーとして再生していく地平にディーヴァは現れるのか。同じ失敗は繰り返さないぞ！！

13 - polepole -ザンジバル島→ンダンダ村→ムシンバティ→ナイロビ→キベラスラム→コンソ村→カンパラ→キガリ→ダル・エス・サラーム (feat. nanashi) [Explicit]
ポレポレはスワヒリ語でゆっくり行こう。アフリカ東海岸の旅。タンザニアのリゾートであるザンジバル島から農村や漁村を歩き、ケニアではアフリカ最大のスラムへと向かう。エチオピア、ウガンダ、ルワンダを経てタンザニアへと戻る旅路。旅は、私たちに忙しい日常生活やこの世の中の支配的な価値観にどっぷりの自分を相対化する視点を与えてくれる。高度情報化社会を生きる私たちは有象無象の情報に曝されるなかで生きている。何か疑問が湧けば、ネットに答えを求める。そして自分のインプット相応分の答えを得る。白黒はつく。だけれど、問いを抱くことの根源にあるワクワク感は失われ、何が正解なのか間違いなのかを試行錯誤するような当たり前のプロセスを一っ飛びして知ってるつもりに陥ってしまう。そんな問題ない人生は問題ありと考えてみよう。旅に出てみよう。分からないということに気づいたら、自分の日常の外部で生活している「他者」へと出会うことができるのだ。それは一見のんびりした道にも見えるかもしれないが、もう一人の自分に出会うためには最も近道なのかもしれない。

14 - let me lose now -エチオピア南部とケニア国境の街モヤレ (feat. Maruk Uganda) [Explicit]
『地球の歩きかた』には登場しないエチオピア南部とケニア北部国境のまちモヤレ。あえて「盗人が多いといわれる」危険なまちへと冒険したFUNI。そこで出会った同じ年頃の男性との人生観をめぐる対話。ウガンダ人のMaruk Ugandaはオーストリア人の恋人がいる。オーストリアに滞在するビザのためにエチオピアに一週間滞在したが取得できなかった。そんな自分へ向けての台詞が「今は負けておいてやるよ。明日は勝つけどね」だ。難しいと信じられていることに挑戦すること。リスクをテイクすること。それは、現代社会で流行りのリスクを管理することではない。リスクは自然や猛獣のように目の前にある危険ではない。人間の文明が生み出した、そして操ることさえできない危険の可能性である。原子力発電所のように。このような圧倒的なリスクを目の前にして私たちに何ができるのか。ストリートで生き抜くためには、リスクと危険の違いを見極めることが求められてくる。リスクが煽る不安に惑わされるのではなく、何が危ないか、危なくないか。それは皆が等しく備えた能力であり、ストリートでのサバイバルが生み出す実践的知恵である。

15 - 110 (feat. 5-O) [Explicit]
ラッパーFUNIのもう一つの仕事。それが電話相談。自殺を仄めかす電話の向こうの相談者。眠れない、死にたい、それは私たちの社会にありふれた、だけれども真に受けない孤独な叫び。狼少年ではない。悲痛なメッセージ。そのメッセージはある人を見殺しにすることは共同体に災いをもたらすという自然の摂理を伝えようとしているようにも感じられる。

16 - Yonayona (feat. tristero) [Explicit]
川崎というコミュニティのディープストーリー。川崎の夜に夢の世界が広がる。金もないし何もないし退屈だが夢を語ることはタダだ。だけれどもいつの間にか仲間たちは別々の人生を歩む。それでもかつての夢を取り戻すためには、何が僕たちを引き裂いていくのかについて考えなければならない。コミュニティの絆を強めるのは正解じゃない。絆は僕たちを縛りつけるし、誰かを排除していることを忘却させる。コミュニケーション能力を身につけることではない。そんなもの誰にでも備わっている。むしろ必要なのはラップが得意とするディス・コミュニケーションだ。そこから物語が紡がれ、もう一つのあるいはいくつもの川崎が浮き彫りになってくる。何が私たちを引き裂き対立させるのか、あるいは無理矢理に統合しようとする力学の正体が。誰もが自分の物語を持っている。ということは他人も同じように物語を持っている。そもそもつながっている物語なのはずなのだから一つの正しい物語はない。いくつものリアリティが同時進行しているのが本来のコミュニティの姿だ。

17 - dawn from darkness -魔の巣 with FRASCO. (feat. tristero) [Explicit]
イベント「魔の巣」2017でのフリースタイル。同じ志を共有する仲間が欲しい。志といっても、そんなに小難しいものではない。知性に抗う真の反知性主義が必要なのだ。排外主義者の非知性主義とは違う。意味を知るために辞書は使わない。そこにはすでに特定の定義や意味が込められているから。むしろそれらの特定の定義や意味は僕たちを縛りつける。意味から遠く離れて＜バカ＞になったとき、普段は抑圧された言葉を自由に解き放つとき、次々と言葉が生まれて数珠つなぎに展開し、同じ志を抱く仲間たちとつながっていく刹那に夜明けの予感を抱くのだ。こういうこともたまにはないと生きていけない。

18 - Nazareth -エルサレム→ベツレヘム→ヘブロン→ナザレ (feat. OCTOPOD) [Explicit]
パレスチナ自治区との境界にあるイスラエルの首都エルサレムからパレスチナ自治区へと渡り、さらにイスラエル側にあるイエス・キリストが生涯を過ごしたとされるナザレへの聖地巡礼。生きている意味を探す旅。まだ出会うことのない誰かを求める旅。聖地巡礼は日常や世俗からの離脱であるとともに、暗闇を照らす光を希求する旅でもある。信じるということ。それは何かにコミットするからこそ生まれくる感覚。その地平に奇跡が起こることを願いながら。